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LIFE IN MIRACLES~奇跡でごはん食べてます~

融通無碍・自由自在・みんなひとつの神さまライフ

満月なんで、書き始めの草稿記事そのまま上げちゃいます。(・・・って、またかーい?!)

フィクション

「バブリー・バブリー」

 

 

 

大阪市の中央を走る地下鉄御堂筋線は、1970年の大阪万博を機に延伸されて北へと伸びた。この新大阪駅より北側の線を北大阪鉄道と呼ぶ。大阪のベッドタウン、吹田市千里ニュータウンまでつながる、5駅ほどのラインである。

新大阪の次の次。江坂という駅の周辺は、住宅地というよりは繁華街だ。

畑と住宅の真ん中の駅前に、まず東急ハンズができて、その周りに飲食店が増えていき、そこにサラ金ビルが連なった。これも万博を機に建設された自動車専用道路の「新御堂筋」を挟んでひしめく8階建てくらいのテナントビル。

そこに健康食品や高額教材の訪販会社を始め、いろいろな無在庫セールス業者の小粒な事務所が、ぎっしり詰まっていた。

その会社説明会は、そんな訪販ビルのワンフロアにあるレンタル会議室で開かれた。

それまで勤めていた求人広告の代理店を辞めて、しばらく自宅で代理店の代理店として自営を試みていた辻田叶子は、無計画な飛び込みセールスに限界を感じ、そろそろ収入が途絶えて3か月にもなる状況で、いよいよ母一人子一人の生活を支えるに不便をきたし始めていた。新聞や他媒体の求人広告をリストにアポ取りの電話をしたり、ランダムに地域を決めて企業向けの飛び込みを繰り返していたが、ほとんど収益は上がらなかった。

そんなとき、リストとしてピックアップしていた新聞の求人欄の、「支度金30万円支給」という文字が目に留まったのだ。

職種は不動産セールス。社名は聞いたことのない、平成銀河コーポレーション。

新規事業発足につき、云々。固定給15万円プラス歩合給。とあった。

支度金が30万円あれば、母との生活を2か月は維持できる。固定給が15万円なら、求人広告の営業社員だったころと比べても1万円少ないだけだ。そこに歩合がつくとなれば、少しは母に楽をさせられるし、自分のカードローンの返済ももっと楽になる。

そんな思いから、応募した。

会場には、数十人の中高年男女が集まっていた。

30歳そこそこなのは、自分だけのようだ。

あ、ひとりだけ自分より若そうな女性がいる。

その女性は、中途採用の説明会には少々目立ちすぎるようなライトグリーンのボディコンスーツを着ていた。スカートの裾は、膝よりかなり高い位置にあった。

不動産セールスより、北新地の高級クラブのホステスに似合いそうな服装だ。

その彼女以外のオジサンたちは、一様に「生活にくたびれた」表情と風体で、部屋にはくすんだような、無彩色な空氣感が充満していた。

自分はどうだろう?まだそこまではくたびれていない。派手なグリーンスーツの彼女以上に、自分も場違いなところへ来てしまった?と、身の置き所に困る感じでいた。

そこへ、ドタドタと足音を立てて入室してきた人があった。紺色のダブルのスーツに真っ赤なネクタイ。でっぷりと太った40歳くらいの男性で、わざとらしく肩をそびやかし、顎を突き出しかげんに首をひねりながら、ホワイトボードの前に立った。演説用のデスクに両手をついて、会場内の参加者全員を無遠慮に眺めまわすと、かなりの大音声でひとこと、

「ようこそ!平成銀河の新たな英雄たちよ!!」

と叫んだ。

一九分けのバーコードヘアの間に、赤く油光りする頭皮がのぞいている。

きっとこの人は、高血圧の高脂血症だろう。と、叶子は思った。

眼玉も赤い。飲酒の性癖によるものか?正しく寝不足によるものかは、まだわからない。

わかっているのは、このタイプは怒らせたら面倒くさいタイプだということだ。

他人を平氣で大声で面罵し、さらには執念深く責め続ける・・・。

第一印象で人格を推し量るのは、5年あまりの広告営業で身についた癖だった。

だが、人事部長を名のるこの男性は、芝居がかった第一声以降、思いのほか柔和な物腰で至極簡明に会社概要や業務内容の説明を施した。正に立て板に水。

29歳になっても、勉強好きな学生氣質の抜けない叶子には、この「授業」は、好ましいものだった。

(なんだか怪しいけど、この研修はきっと自分の将来の利益になる。この講師のノウハウを掴むだけでも。だから1週間の研修期間だけでも、ここに通ってみよう)

子どものころから学校の先生が将来の夢だった叶子は、そう思った。

そう思ってしまったのだ。

このあと始まる、過酷な、文字通り「真冬の日々」はまだ認識しようもなかった。